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リスクの因子を分析する方法試案
2006-11-17 Fri 11:35

リスクに関して社会心理学の分野では、リスクイメージを次の3つの因子で表現できることがわかっている。

  • 因子I:恐ろしさ因子(Dread)
  • 因子II:未知性因子(Unknown)
  • 因子III:災害規模因子(Number of people involved)


このうち因子IとIIの2因子は多くの研究で、どのようなリスクの組み合わせでも安定して抽出されることも分かっている。

Solvic(1987)によれば、この2つの因子を構成する尺度はつぎのものであるという。

  • 因子I:恐ろしさ因子
    制御不能 - 制御可能
    恐ろしい - 恐ろしくない
    世界的にカタストロフィックだ - 世界的にカタストロフィックでない
    結末が致命的だ - 結末が致命的でない
    不公平 - 公平
    カタストロフィック - 個人的
    将来の人類にとってリスクが大きい - 将来の人類にとってリスクが小さい
    リスクの軽減が容易でない - リスクの軽減が容易
    リスク増大傾向 - リスク減少傾向
    受動的 - 能動的
  • 因子II:未知性因子
    観察可能 - 観察不可能
    接触している人が知っている - 接触している人が知らない
    影響が遅延的 - 影響が速効的
    新しい - 古い
    科学的に不明 - 科学的に解明されている

 以上の尺度を用いて、アンケートによってリスクイメージを2因子分析を行い、その説明率を算出する。この分析結果を通じて、一般人及び専門家等のリスクイメージの全体像及びその相違を把握することができる。


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77%を見過ごさない-企業の地震対策
2006-11-15 Wed 10:49

地震の発生が確率的にランダムであるなら、昼間に起きる確率と夜に起きる確率は同じはずです。確かに、昭和以降のM6.0以上の地震の発生時刻を調べてみますと昼間に起きた地震は55%、夜に起きた地震は45%です。もっと長期間について調べてみれば50%に収束していくと思われます。

発生する確率がいつでも同じであるとすると、週40時間の労働時間の今日、勤務時間中に地震に遭遇する確率は、約23%です。あとの77%は通勤途上や在宅時ということになります。

企業の地震対策は、この23%の可能性(昼間起きること)にかけてきた感があります。事業所内の安全という観点からは、23%の可能性が企業としての責任の範囲かもしれません。そして社員がほとんど出社した後の地震対策の方が作りやすいという側面もあると思います。

しかし総合的に地震対策を検討する際には、77%の可能性を見過ごすのは大きなミスです。

まして、ここ10年ほどのM7以上の大地震を調べてみますと、これがすべて夜間又は未明に起きています。1993年の釧路沖地震、北海道南西沖地震、1994年の北海道東方沖地震、三陸はるか沖地震、1995年の兵庫県南部地震とサハリン北部地震、2004年新潟県中越地震(これは夕方)、そして今日の千島列島の地震(M8.1)のいずれもが夜間又は未明に起きています。

確かに大都市では、帰宅困難者の問題があって、昼間の想定も重要でしょうが、夜、大地震が起きたらどうするか。これが地震対策を検討するときの今日的な視点であると思います。

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うちに限って症候群
2006-11-10 Fri 03:22

マーフィの法則に「悪いことが起きる可能性があれば、それは必ず起きる」(If anything can go wrong, it will.)というのがある。

米国の保険引受団体、ファクトリー・ミューチャルは「起きたことはまた起きる」という題名の有名な事故例集を発行している。このように可能性のあるものは必ず起きると考えるのは健全な考え方である。


しかし、米国でも「うちに限って症候群」(What-happened-can't-happen-here syndrome)といって、よそで悪いことが起きても自分のところは大丈夫と考えることを病気に例えてこう呼ぶことがある。わが国にも「うちに限って症候群」が蔓延しており、安全対策等の障害になっているのではないだろうか。


リスクマネジメントは、リスクに大小はあっても、リスクが存在することを認めるところから出発している。ここでいう“リスク”とは“損失の可能性”という意味である。つまりリスクは、放置すれば現実に損失が発生しうることをいう。一般的にはこのように考えて差しつかえない。

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東京都が9年ぶりに地震被害想定を発表
2006-11-07 Tue 11:24

東京都が東京直下地震の被害想定結果を公表した。いつ出すのかいつ出すのかと思っていたが、地域防災計画の見直しに向けていいタイミングで発表した。

その概要は次のとおりである。

(1)全体の傾向

  • 震度6強は、東京湾北部地震で区部東部を中心に発生する。
  • 物的被害は、東京湾北部地震、多摩直下地震いずれも規模(M7.3、M6.9)を問わず、区部の木造住宅密集地域を中心に発生する。
  • 人的被害は、死亡は火災を原因とするものが多く、負傷は建物倒壊を原因とするものが多い。

(2)地震動(地震のゆれ)

  • 東京湾北部地震M6.9の場合、区部東部を中心に区部の約23%が震度6強となる。
  • M7.3では、都心から区部東部にかけて震度6強の範囲が広がり、区部の約49%を占める。
  • 多摩直下地震の場合、M6.9、M7.3ともに区部のほとんどが6弱となる。多摩地域ではそれぞれ約28%、約52%の地域が6弱となる。

(3)ゆれ・液状化・急傾斜地崩壊による建物被害

  • 東京湾北部地震M6.9の場合、都内建物約270万棟のうち、ゆれ・液状化・急傾斜地崩壊により、約6万棟(2%)が全壊、約21.5万棟が半壊となる。
  • M7.3では約12.7万棟(5%)が全壊、約34.6万棟が半壊となる。
  • 多摩直下地震の場合、M6.9では約2.1万棟が全壊、約16.2万棟が半壊となる。
  • M7.3では約5.2万棟が全壊、約30.3万棟が半壊となる。

(注)全壊、半壊の定義は、り災証明書の区分による。

(4)火災による建物被害

  • 東京湾北部地震M6.9の場合、都内の建物約270万棟のうち、約18.3万棟(約7%)が焼失し、焼失面積は約53平方キロメートルとなる。
  • M7.3では、約31万棟(約11%)が焼失し、焼失面積は約98平方キロメートルとなる。
  • 多摩直下地震M6.9の場合、約10.7万棟(約4%)が焼失し、焼失面積は約30平方キロメートルとなる。
  • M7.3では、約29.3万棟(約11%)が焼失し、焼失面積は約81平方キロメートルとなる。

(5)人的被害

  • 東京湾北部地震M6.9では、約2,300人が死亡し、約41,000人が負傷する。
  • M7.3では、約4,700人が死亡し、約89,000人が負傷する。
  • 多摩直下地震M6.9では、約1,100人が死亡し、約31,000人が負傷する。
  • M7.3では約2,700人が死亡し、約52,000人が負傷する。

(6)ライフライン被害

1)電力

  • 東京湾北部地震では、区部東部での被害が大きく、M6.9の場合、墨田、葛飾区で停電率30%以上となる。
  • M7.3の場合、墨田、荒川、葛飾区が40%以上、江東区、江戸川区が30%以上となり、多摩地区の市も、M6.9に対し、約2倍の20市が被害を受ける。
  • 多摩直下地震でも、区部の停電率が高い。
  • M6.9の場合、杉並区など5区で10%以上となり、M7.3の場合は中野区など5区1市で20%以上となる。

2)通信

  • 東京湾北部地震M6.9の場合、全ての区が被害を受けるが、市部では数市にとどまる。
  • M7.3の場合、北多摩北部の市と西多摩の市町村を除く区市が被害を受ける。
  • 多摩直下地震では、M6.9の場合、区部は被害を受けるが、多摩の市町村はわずか被害にとどまる。
  • M7.3の場合、西多摩の一部を除く区市町村が被害を受ける。

3)ガス

  • 東京湾北部地震でM6.9の場合には4区で供給停止が発生し、墨田、江戸川区の2区が、50%以上の供給停止率となる。
  • M7.3の場合は、9区で供給停止が発生し、中央区など6区が50%以上の供給停止率となる。
  • 多摩直下地震では、供給停止は発生しない。

4)上水道

  • 東京湾北部地震では、M6.9の場合、羽村市と西多摩の町村を除く区市で断水が発生する。
  • M7.3の場合、断水のないのは檜原村、奥多摩町のみである。
  • 多摩直下地震で断水のないのは、M6.9の場合、檜原村と奥多摩町、M7.3の場合、檜原村のみである。

5)下水道

  • 東京湾北部地震M6.9の場合には、檜原村、奥多摩町以外は下水道管きょに被害が発生し、M7.3の場合には全区市町村で被害が発生する。
  • 多摩直下地震では、M6.9、M7.3の場合、いずれも全区市町村で被害が発生する。

(7)避難者

  • 発災直後に建物の被災が原因で避難する者は、東京湾北部地震M6.9の場合、約166万人、M7.3では約287万人となる。
  • 多摩直下地震M6.9の場合、約96万人、M7.3では約228万人の避難者となる。

(8)帰宅困難者

  • 震度5強の場合には鉄道等ほとんどの交通機関が停止する。このため、いずれの地震規模でも都全体で外出者(都内滞留者)約1,144万人のうち、約392万人(約34%)の帰宅困難者が発生する。
  • アンケート調査をみると、外出者(都内滞留者)のうち、地震発生直後、何としても自宅に帰ろうとする者が約372万人、とどまって様子を見る者が約420万人、駅に様子を見に行く者が約95万人と想定される。

(9)エレベーター閉じ込め台数

  • 東京湾北部地震M6.9の場合、エレベーター約14.5万台中、閉じ込めが発生するエレベーターは約7,500台、M7.3では約9,200台となる。いずれの場合も区部がほとんどを占める。
  • 多摩直下地震M6.9の場合、閉じ込めが生じるエレベーターは約6,800台、M7.3では約7,700台となる。この場合も区部がほとんどを占める。 今回の特徴はこのエレベータの閉じ込め台数である。政府の人数表現でなく、台数で表したところがミソだ。

(06年3月記)

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リスクベースのLCC研究の課題
2006-11-04 Sat 04:46

1.経年劣化と事故・災害の発生の関係

ISOが2002年、ISO/IEC Guide73 “Risk management—Vocabulary—Guidelines for use in standards”を公表した。この国際規格はリスクマネジメントに関する規格を制定する際に使用すべきリスク関連用語を定義したものである。この規格で定義したリスクの概念は非常に広い。リスクを不確実なものだけでなく、確実に発生するものも対象とした点も特徴のひとつである。地震の発生は不確実であるが、経年劣化は確実に進行する。この経年劣化という事象もリスクの要素であるとしたのである。

この定義は機械設備のように経年劣化が重大な事故や災害を引き起こす主要因になる場合には抵抗感が少ないだろう。しかし、建築物でも同じことが言えるのであろうか。このあたりを探るためにひとつの例として、東京都内の分譲マンション管理組合が経験する事故や災害に関するアンケート調査[1]の分析結果を紹介する。いずれも複数回答の合計なので累計割合は100%を超えている。

「共用部分の建物・設備面で困っていること」をマンションの完成年次別に見ると、困ったことのほとんどが建築物の経年劣化に伴う事象であり、古いマンションほど発生頻度が全体として高いことが分かる。個々の項目についてはばらつきがあるが、その総計は建築年数に比例して大きくなっており、マンションの建築年数と劣化に係る事象の発生頻度に相関関係があると言ってもよいだろう。

一方、経年劣化と事故や災害の発生との関係はどうであろうか。機械分野では原子力施設の配管についてリスク援用(Risk-Informed)評価技術が開発され、適用分野も拡大してきているが、興味深い点は配管の損傷発生率を配管の劣化程度で代表させている点にある。つまり、配管の損傷発生と劣化の程度に正の相関があるとしているのである。リスク援用評価技術は、はじめに米国機械学会(ASME)がCode Case N-577として公表したものである。正の相関は配管損傷の特殊性として確認されているものの、複数のリスク(マルチリスク)を評価する際の考え方としてはいいところに目をつけたものである。

建物の経年劣化と事故・災害の発生の関係について先のアンケート調査[1]結果における「共用部分について経験したことがある事故や災害」を完成年次別に見ると、全体的に古いマンションほど事故や災害に遭っており、経年劣化と事故災害の発生に関係があると見ることができる。事故・災害にあったマンションの数が少ないが、ひとつの結果ではある。新たにリスクが定義された今日、建築物についてこのあたりを一度整理してみる必要があるだろう。

2.リスクベースのLCC分析へ向けて

建築物のマルチリスクを評価する際に持ち出されるのがリスクコストである。リスクコストは大きく2つに分けられる。

ひとつは地震や台風等に対する防災投資、経年劣化に係る対策コスト、損害保険料などの合計である。これを投資コストと呼ぶ。

2つ目は投資にもかかわらず、建築物の事故・災害などにより所有者・管理者が負担する損失コストである。この損失コストには通常、経年劣化に伴う修繕費は含まれていない。建築物の所有者・管理者はこの損失コストと投資コストの両方を負担するが、その最適化について図のような考え方が以前から提唱されていた[2]。

図のように損失コスト(グラフA)と投資コスト(グラフB)はトレードオフの関係にあるので、総コストはL(=A+B)のグラフになる。 この考え方は、総コストが最も低くなる(M点)ような投資コストA’を選ぶのが最適であるというものであるが、逆に損失という観点からみればA’’の損失を許容するということである。 しかし損失コストは通常、建物又は収容品等の物的損失、休業による損失、傷害のコスト、死亡のコストなどに分けられ、人の死傷のコストが含まれる点に留意してほしい。

わが国では人命をコストに換算することにかなり根強い抵抗がある。「人命第一」という考え方が社会的に認められており、すべてをコストで割り切ろうとすると、安全に対する理念が社会的な批判を受けることがある。例えば、投資額が1億円の時には損失額は2千万円だが、投資額を半分の5千万円にすると損失額が2倍の4千万円になる場合、総コストは後者の方が低い。この損失額の差が人の命であった場合に9千万円の総コストのリスク管理は現在の日本社会では受容されないだろう。リスクの社会的受容性(social acceptability)に対する配慮が必要である。これが投資と損失の最適化だけでリスクコストを考える際の現代日本社会の課題である。

それではこれをライフサイクルコスト(LCC)から見たらどうなるであろうか。建物のLCCには様々な考え方がある。その一例として損失コストCaを含めたものを示すとLCCは期待値として通常、次のように表わされる。ここには投資と損失の最適化という考え方は見られない。

E(Ct) = Ci + Cd + Cm + Cs + E(Ca)

Ci:初期建設費用、Cd:運用費用(光熱費等)、Cm:維持管理費用、Cs:解体費用、Ca:損失コスト

この考え方におけるリスク技術上の課題をまとめてみたい。

〓損失コストの把握

損失コストの期待値E(Ca)は通常、予想損失額と発生確率の積で表されるが、これは損失をもたらす事象が確率事象であることを暗黙の前提としている。そうなると損失の期待値は損害保険のリスクに相当する掛け金、つまり「純保険料」に相当するものとなる。つまり、もし確率事象による損失のすべてを補償する保険があるとすれば、この損失の期待値E(Ca)は保険料として運用費用Cdに含むべきものとなり、建築物の所有者・管理者が実際に負担する損失コストは0となり、LCCはほぼ一定の額になる。実はこのコストの平準化こそが保険の経済的な効用なのである。

しかし損害保険は原則的に補償の対象を不測かつ突発的な事象に限定しており、事故や災害によって建築物に発生する損失の一部を経費化するのが社会的な役割である。このように保険などリスク移転の仕組みの適用如何によってLCC自体の構造が変わるので、純粋技術的に損失コストの期待値を計算することにコスト論上の意味はない。LCC分析では保険などリスク移転の仕組みを考慮して、負担すべきコストを把握することが必要であろう。

〓マルチリスクの評価指標の開発

上記の算式では、ISOの新たなリスク定義に含まれる経年劣化のような「確定的」リスクなど確率現象ではないリスクによる費用は維持管理費用Cmに算入しているが、先に見たように経年劣化と事故・災害はまったく無関係とは言い難い。また、経年劣化に伴う修繕費は予防保全的意味もあるが、災害によるものと同じく建物の所有者にとっては損失であり、そう把握したい。そのためにはメンテナンス・リスクや事故・災害のリスクなどをマルチリスクとして同じベースで扱うことが必要である。先に述べたリスク援用評価手法のように経年劣化度が使えればベストであるが、建築においては地盤、地域特性、工法、法規制などの様々な要因が影響しており、直感的にも経年劣化度だけでは共通の指標たり得ないと思われる。リスクの種類によらない統一的なリスク評価指標とデータベースの開発が必要である。

200年夏以降、原子力分野で事後保全が導入されている。建築分野でも以上のようなリスク技術上の課題を解決していくことを通じてリスクベースのLCC研究の発展が求められるだろう。コスト把握は必ずコスト削減につながり、その際には損失コストまで含めたLCCを考えるのが時代の要請である。(建築学会誌論文)

参考文献

[1](財)東京都防災・建築まちづくりセンター,「分譲マンションの維持・管理に関する支援制度の調査検討報告書」,2000

[2]中村裕幸,「建築における防火設備コストの分析」,建築設備と配管工事,1985

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